| いずみシンフォニエッタ大阪に新曲を書き下ろす
歴史に名を刻む大作曲家は男性ばかりでも、現代は女性作曲家が百花繚乱。色とりどりの個性を開花させて、現代音楽のイメージを軽やかにしている。今年度から不定期で、関西ゆかりの期待の新進作曲家に作品を委嘱することに決めた「いずみシンフォニエッタ大阪」。トップバッターは京都生まれ大阪育ちの29歳、土井智恵子さんだ。
大阪湾をなでる潮風が五感を刺激する住之江区南港で育った土井さん。幼稚園のころ、NHK『みんなのうた』で流れた『コンピューターおばあちゃん』(81年)に釘付けになった。坂本龍一がテクノポップ風の編曲を施した知る人ぞ知る名曲だ。ピアノを習い始めた小学生のころに、再び音楽に衝撃を受けた。映画『子猫物語』(86年)の主題歌で、これも坂本龍一の作・編曲。「和音に惹かれて、ピアノに向かって夢中でその響きを探したんです」と土井さん。
高校1年生で音大のピアノ科を志望するが、指のバランスの問題を指摘されて断念。その時の恩師の一言が人生を決めた。「じゃあ作曲と声楽、どっちが好き?」
相愛大学音楽学部作曲作曲学科に進み、運命の扉が開く。図書館で聴いた西村朗(いずみシンフォニエッタ大阪音楽監督)の『弦楽四重奏のためのヘテロフォニー』。
「最初は現代曲が大嫌いでした。不協和音とか、人の心に入っていけない音づくりをする方が多いと思って。この曲はエネルギーがそのまま音になっていて『こんなことが出来るのか……』と呆然」
自作曲を抱え、恐る恐るいずみホールの楽屋に運命の人≠訪ねた大学生の土井さん。譜面を見た西村の第一声は「おーっ」、ページをめくるうちに「あれっ?」。西村のアドバイスを得た曲『水鏡に見入る木』(01年)は、日本現代音楽協会作曲新人賞に入選。その後東京音大大学院を首席で修了し、現在は独・ハノーファー音楽演劇大学で学ぶ。
「現代曲への違和感を最初に解消してくれたのが武満徹さんの『海へ』。そして西村先生の『ヘテロフォニー』で私は目が覚めました。そんな先生に出会えてすごく幸せだと思います。あ、ここ太字でお願いシマス(笑)」
作曲の流儀は十人十色だが、土井さんは「イメージ先行型」だとか。頭の中の映像の断片から構想を固めていくと、次第にイメージに合う楽器やモチーフが浮かぶという。
「“書きフェチ”なんですよ。五線譜に音符が並んでいくのが楽しくて、書き始めると止まらない。2〜3日眠らず、食べるものも食べず書き続ける。で、締め切りギリギリ、郵便局の窓口が閉まる直前に封筒を持って駆け込むんです。お風呂も入ってない、ジャージ姿のまんま。郵便局の人も引きますよぉ」。ああ、隙のない美貌とのギャップが……。
極度に集中して生み出された作品は美しく繊細で、官能的な香りすら漂う。「第1回山響作曲賞21」の受賞作、『波跡』(05年)。深遠なる海の世界を表現した作品だが、ライブで聴いた時に私は妊娠中の記憶がリアルに蘇り、自らの意識が胎児の棲む子宮へと入り込むような不思議な感覚にとらわれたのを覚えている。
来年3月に初演される委嘱作品『birdoid』(鳥もどきの意)は、夢で見た場面から想像力を膨らませた。
「夜の海に私が浮かんでいると、白い鳥の大群が海の中から一斉に飛び立つ夢でした。海に溶けてしまいたくて海へ飛び込んだ瞬間、私の体は鳥になって分散して魚の群れと一体になるけど、最後には意識は鳥から乖離して一つにはなれない。そんなストーリーを表現したいと思います」
自然体で飾らない人柄が魅力的。「ドイツで寂しくなると、インターネットでダウンタウン(漫才コンビ)の情報を検索するんですよ。帰国するとお笑い番組を見るのがもう楽しみでー……(お笑いネタ、止まらない)」。生粋の関西人≠フ土井さん、来春には留学を終えて大阪に戻る予定だという。聴き手の想像力をわさわさとかきたてるような響きの創造を楽しみにしたい。
いずみシンフォニエッタ大阪 第18回定期演奏会
2008. 3/15(土)16:00 「弦楽合奏を多彩に」
<出演> 飯森範親(指揮)/高木和弘、中島慎子(ヴァイオリン)
いずみシンフォニエッタ大阪
<曲目> 松村禎三:プネウマ
(松村氏追悼のため、リゲティ:ラミフィカシオンから変更)
土井智恵子:birdoid(委嘱新作・初演)
バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメント
J.S.バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調BWV1043
オネゲル:交響曲 第2番
<料金> 全席¥5,000 学生¥2,500
|