「Jupiter」に掲載されたインタビューを本ページ用に編集し、お届けするコーナー。
本誌ではカットされた部分も公開しますので、お楽しみに。
独自取材企画が登場することもあります。
演奏会が100倍面白くなる旬の情報は、ぜひここで。

 

今回は「Jupiter」123号に掲載中の、クリスチャン・ツィメルマン(ピアニスト)のインタビューをweb同時掲載いたします。世界的巨匠がシューマンに、ハーゲン弦楽四重奏団との共演にどのように取り組むのか、ご覧ください。


クリスチャン・ツィメルマン インタビュー
私はそもそも室内楽から来た人間なんですよ


ピアノの巨匠、クリスチャン・ツィメルマンが、来たる9月、ついにいずみホールに登場する。 しかもハーゲン弦楽四重奏団との共演で! この分野における、いまや中核的存在といってよい彼ら。 「なんと豪華な」とため息が出るような室内楽の一夜だが、そこには、そんな一言だけではとらえきれない、因縁浅からぬ背景があるのだった。 シリーズ「シューマン2010〜ロマンの理想を求めて」の口火を切る演奏会ということで、まずは生誕200年を迎えるこの作曲家について伺ってみた。
                  取材/文・舩木篤也


緊張と未解決の問題をはらんだ音楽

--- ずばり、シューマンはツィメルマンさんにとって、どんな存在でしょう?
ツィメルマン:じつを申せば、シューマンとの関係は、これまで比較的薄いほうでした。彼は熱き探求の人であり、ついには精神を病みもした。そしてそれが作品の至るところに見受けられると思うのです。流れるようなショパンの音楽と違って、常識では考えられない奇妙なところがあります。たとえば終楽章ですね。ピアノ・ソナタ、ヴァイオリン・ソナタ、交響曲など、どれも問題なしとしません。ピアノ協奏曲のそれなど、作曲家は結論を探しに探すのですが、ついにそれが見つからない(笑)。緊張と未解決の問題をはらんだ音楽、それがシューマンです。

--- しかし、そのような新種の音楽を意識的に書いたのだとも言えませんか?
ツィメルマン: もちろんそうです。シューマンは疑いなく音楽史における偉大な人物です。狭い意味での作曲家としてだけではなく、音楽のいわば学者として。作曲家には、危険を承知でまったく新しい道を切りひらいてゆくタイプと、ある様式をとことん追求しはするが、ベースの部分でじつは既存のものに拠っているというタイプ、そして、とうに過ぎ去った時代を模倣し、そこから可能性を搾り取るタイプがありますが、シューマンは第1のタイプに属するでしょう。

--- 日本の現実を申しますと、寂しいことに、シューマンは必ずしも人気作曲家ではありません。
ツィメルマン: そういう現実があるとすれば、いずみホールが今回のようなシリーズを組んだのは、まさに意義あることですね。作品のラインナップも非常によい。とにかく作品を知らしめることが第一ですから。

--- ツィメルマンさんのピアノの響きには、独自の「文化」と呼べるような何かがあると思います。シューマンを演奏するにあたって響きの上で心がけていらっしゃることは?
ツィメルマン: お褒めのことばは有難いのですが、響きというものは、音楽のたんなる手段だと思っています。私が求めているのは「美しい響き」ではなく、その都度の音楽に適った響きです。さらには、響きの文化というときに、さまざまな文脈を考慮する必要があります。たとえば、ピアノという楽器そのものが過去の世紀を通じて激変しました。シューマンの作品にしても、難しく書かれているというより、それが理由で難しく「なった」と言うべきです。コンサート会場も巨大化した。楽譜に書いてあるとおりにすれば良いというものでもない。学生にはよく、そこでのペダル指示がどんな効果をもたらすか当時の楽器を弾いてごらん、そしてそれを現代のピアノで伝えるにはどうしたらよいか考えるんだと言っています。


ハーゲン弦楽四重奏団との出会い

--- 今回は独奏曲ではなく、室内楽を演奏されますね。
ツィメルマン: 私はそもそも室内楽から来た人間なんですよ。私の父はピアニストだったのですが、戦後の困難な時期、もう一つ別の職を身につけ、ある工場で働きました。そこにはやはり元音楽家の同僚がたくさんおり、彼らと室内楽をするんですね。あるとき私も楽器をもらい与えられましてね。息で吹く、鍵盤のついたお化けのクラリネットのような変な楽器なんですが、それでもって見よう見まねで音にしているうちに、楽譜が読めるようになった。誰かが抜けると、私が代奏するんですよ。シューマンのピアノ五重奏曲もやりました。チェロ・パートはたぶん20回吹いた。ヴィオラは10回。第1ヴァイオリンだってやった(笑)。みな食べるのも忘れて、憑かれたようにやっていましたね。生涯で最も素晴らしい音楽体験です。学校時代も繰り返しやったのは室内楽なのですが、そのうちベートーヴェン・コンクールに、プロコフィエフ・コンクールに、ショパン・コンクールに出て、賞を獲るようになった。すると人はその都度、私からベートーヴェンばかりを、プロコフィエフばかりを、ショパンばかりを求めるようになった……。

--- ハーゲン弦楽四重奏団とはどのように知り合ったのですか?
ツィメルマン: これまでに一度だけ、私も審査員というものをやったことがありまして、1983年、ロッケンハウスでのことです。室内楽のコンクールで、審査員はほかに、ギドン・クレーメル、ハインツ・ホリガー、アンドレアス・シフ、ミシャ・マイスキー。そして我々は満場一致で、ハーゲン弦楽四重奏団に1等を与えたのです。

--- つまりツィメルマンさんは、彼らのお父さんのようなものですね。
ツィメルマン: 今回、あれからほぼ30年後に初めて彼らと共演するのです。感動的ですね。まずイタリアで一緒にやり、この夏ザルツブルクで共演します。それから日本に来ます。そうして今年生誕200年のシューマンと、昨年生誕100年を迎えたグラジナ・バツェヴィッチ(1909-1969)を祝うのです。彼女はピアニストでもヴァイオリニストでもありましたから、ほんとうに見事な室内楽曲を書いていますよ。ピアノ五重奏曲には2曲あって、第1番(1952年)は交響曲のような音楽です。その極端な悲劇性はショスタコーヴィチの音楽にしか見出せないようなものですが、スケルツォの軽やかさは、民謡に基づいています。

--- ポーランドの作曲家をポーランド出身のピアニストが演奏するということで、なんらかのメッセージをそこに汲み取るべきでしょうか。
ツィメルマン: 良い音楽だから演奏する、ということです。彼女のピアノ・ソナタを、1970年代に、ここ日本で弾きましたところ、とても喜んでもらえましたし、何人もの日本人ピアニストがあの曲を弾くようになったことも知っています。五重奏曲もそうなるだろうと思っています。
--- ありがとうございました。


Krystian Zimerman
ポーランドのサブジェ生まれ。カトヴィツェの音楽院でアンジェイ・ヤシンスキに師事。
1975年にはショパン国際ピアノコンクールに史上最年少の18歳で優勝して、一躍世界の音楽界に知られる存在となった。 これまでに、チョン・キョンファ、クレーメル、メニューインらの演奏家、またバーンスタイン、カラヤン、ブーレーズ、ジュリーニ、 マゼール、小澤、ムーティ、ラトル、ヤンソンスら多くの指揮者と共演している。 ドイツ・グラモフォンとの30年間におよぶコラボレーションはCD30枚分に近い録音に結実し、またリリースされたCDの中で数多くの権威ある賞を受賞している。




 

9月29日「シューマン2010」の第1回に登場し、ピアニストのクリスチャン・ツィメルマンと共演するハーゲン弦楽四重奏団。演奏会に向けてウィーン在住で音楽ジャーナリストの山崎睦さんがインタビューを行いました。  


 「ハーゲン弦楽四重奏団が語る
               ツィメルマンとの初共演!」
                            インタビュー:山崎睦


---あいかわらず若々しく溌剌と世界を席巻しているハーゲン弦楽四重奏団(SQ)とピアノ界の最高峰、クリスティアン・ツィメルマンの初共演が今回実現します。最初の出会いは?
ヴェロニカ(ヴィオラ): ギドン・クレーメルがオーストリアのロッケンハウスで開催している室内楽フェスティヴァルは現在も続いていますが、その第1回が1981年で、そのときの室内楽コンクールで私たちが優勝し、ツィメルマンも審査員の一人だったんですよ。
                                          クレジット:Reqina_RechtDG                                     

---じつは私もそのとき会場に居たから、よくおぼえています。審査員が全員一致でハーゲンSQの優勝を決め、会場に配られた用紙でみんなが投票した聴衆賞も獲得してセンセーションを巻き起こしたんですよね。とにかくあなたたちがダントツでした。みなさんとても若いのに完成度が高くて、誰もが驚嘆したんですね。何歳でしたっけ?
ルーカス(第1ヴァイオリン): 長男のボクが19才で一番下のクレーメンスが15才でした。その間に妹のヴェロニカがいて、ライナー・シュミットが参加したのはその後になります。


---ツィメルマンとの共演について?
ライナー(第2ヴァイオリン): 偶然だけどボクもツィメルマンと同じバーゼルに住んでいるんですが、彼がわれわれの演奏スタイルに共感を示してくれ、今回の共演をたいへんよろこんでいると連絡を受けました。
クレーメンス(チェロ): 彼が尊敬すべきピアニストだということだけではなく、彼といっしょなら同じ方向で音楽ができると確信したので共演することにしたのです。
ヴェロニカ: けっして自分を表面に立てるのではなく、作品にすべてを語らせるという彼の音楽に取り組む姿勢が素晴らしいですね


---今回のプログラムの聞きどころを教えてください。
ライナー: シューマンは生誕200周年に当たることもあってツィメルマンのたっての希望です。この作品はブラームスの「ピアノ五重奏曲」と並んで、よく演奏していますね。またバツェヴィッチの作品のうち弦楽四重奏曲を演奏したことがあって、彼女の作風はわかっています。途中にわたしたちの好きなヤナーチェクを入れて全体の流れをつくることを念頭に入れました。
ヴェロニカ: ピアノとの共演は、これまでポリーニ、内田光子、パウル・グルダとか、けっこうやっていますから。われわれ弦楽器奏者はピアノの平均律とは異なった音程感で演奏していますから、ピアノと合わせるときは微妙な調整が必要になるのです。


---演奏活動を初めて30周年ですね。現在、および将来の展望は?
ルーカス: 継続、そして前進あるのみです。いまコンサート数は年間に50〜60ですが、これからもそのペースでしょう。弦楽四重奏団としては、われわれの上の世代がさびしくなっているので、ひとつ責任を感じるところです。レパートリー的には、まだハイドンの全曲演奏をしていないとか、新曲初演など、やるべきコトはたくさんあるんですよ。